静岡市葵区のバー「トリスタン」の店内を、ステンドグラスの明かりが優しく照らす。洋酒の瓶が並んだカウンターの奥でシェーカーを振るのは、店を一人できりもりする鈴木さん(34)。短い髪、白いシャツにベストという姿が、爽やかな印象を与える。
鈴木さんは女性として生まれたが、心は男性として生きるFTM(Female to Male)だ。元号が平成に変わったばかりの幼稚園の頃、初恋をした。相手は近所の女の子だった。女の子の服を着せられることや髪を伸ばすことが嫌で、「かわいい」よりも「かっこいい」と言われたかった。
日本で初めて同性愛者のパレードが行われた1994(平成6)年は、小学5年生だった。パレードの様子はテレビで見た。「どうして全員顔にモザイクがかかっているんだろう?」と疑問に思った。同じ頃、人気の男性タレントが同性愛者をからかうようなキャラクターをテレビで演じ、クラスのみんながまねをして笑っていた。「女の子を好きなことがばれたら、自分も同じように笑われる」。自然と口数が減った。
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96年、中学生になると、「性同一性障害」という言葉を知った。「男として女が好き」なら楽になれるかも――。そう思ったが、同時に性別適合手術の大変さも知った。「自分らしく生きる道が他にあるのでは」と手術以外の道を自然と模索するようになった。
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